秋の森の奇跡
![]() | 秋の森の奇跡 林 真理子 (2006/04/28) 小学館 この商品の詳細を見る |
内容(「BOOK」データベースより)
42歳の主人公裕子は、母親の介護の問題、夫の浮気への疑念から逃れるように、妻子ある男と関係を持つ。不倫ではなく、浮気やよくある情事でもない。そんな魂が触れ合うような恋愛は存在するのか。大人の女性にとってセックスの絡まない恋愛は成立しうるのか。恋愛小説の第一人者、林真理子が日本中の全女性に問いかける、魂を揺さぶる真の恋愛小説。
3カ月くらいの順番待ちで、やっと図書館から借りられた。
本で床が抜けるんじゃないだろうかってな状況で、
図書館に寄付したり、古本屋に持っていったりで、
最近本を買わなくなった私。
本だって、読まなくなるのもあるし、
循環させないとダメなような気がするんだよね。
この人の作品で不倫モノと言えば、
私の記憶にある限りでは不倫する主人公に
最終的になんらかのペナルティがあったように思う。
世の中にハッピーエンドの不倫物語がどのくらい
あるのか分からないが、林さんの場合はそうだったと思う。
ところが、この作品は微妙だ。
特にラストは、どうにでも解釈出来るような終わり方をしている。
私は基本的に不倫が嫌いなので、
不倫をする主人公が最終的に不幸になってくれると
どこかでホッとしたりもする。
だけど、この作品の場合、主人公が不倫であっても、
この人に恋愛があってよかったなと思ってしまった。
その恋愛がどのようなものかは別としてもだ。
唯一、ペナルティが与えられているとすれば、
それは主人公が不倫相手と会っている間に母親が行方不明になり、
一命をとり止めたものの、
娘である主人公がどこのだれかも分からなくなってしまったことだろう。
母親に、「あなた、いったいどなたですか?」と訊かれてしまう。
主人公は母親の老いが気になり、夫に同居を申し出る。
そこでの、夫の対応には本当に背筋が寒くなったが、
結婚とはこういうものかもしれないとも思った。
主人公が離婚してでも、母親を守り抜きたいと感じたのは
分かるような気がする。
その苦しみから逃れるように、不倫をする主人公。
その不倫相手は、主人公を弄んでいただけで、他にも自分の息子の
同級生の母親に手を出しているという事実に出会ってあっけなく
一度目の不倫は幕を閉じる。
名門校の教師である夫は、自分の教え子に、
自分の母親との関係をネット上で揶揄され、
ニュース沙汰になる。
その生徒の母親から、夫への電話を受ける主人公。
なんだ?このオッサン、オバサンの乱痴気騒ぎは?
他の登場人物の心理描写はあまりないが、この主人公にとって、
不倫というか、恋愛は、一種、宗教のように感じる。
この、くだらない、ロクでもない日常から、
自意識から自由になり、我を忘れて、
自分を確認出来る手段がもはや恋愛しかない。
障害がありながらも、なおそれを越えるような強い愛で、
誰かに求められ、愛されないと生きている気がしない。
生きてはゆけない。
恋愛への渇望というより、生への渇望といった印象を受けた。
認知症の母親を抱える主人公の救いの神のように
製薬会社に勤める新しい不倫相手に出会う。
ああ、もう何をしたっていいよ。
こんなに真っ暗闇なんだもん。
もう、何したっていい。私に迷惑かけなきゃ、
電車や路上でいきなりキス!とかやらなきゃ何したっていい。
そんなふうに思える程、主人公にあちこちから重圧が圧し掛かる。
別に主人公は女2人姉妹の長女というわけではない。
エリートと呼ばれる兄がいるが、母親がオカシイとなった時に、
順風満帆の人生を歩んでいる人間が
どれだけ打算的で残酷になるかを思い知らされる。
呆けかけた姑など、人生の汚点以外の何者でもない。
花とリトグラフに囲まれたこのしゃれた居間に、
絶対に持ち込みたくないとばかりの母親に対する
言葉を主人公は聞いていられなくなり、
自分が面倒を見ることを決意。
主人公の人生より、こっちの兄嫁のような人間が
今後どういう人生を歩んでいくのか、
そっちの方が気になってしまったが、
更に幸福になっていったりするんだろうなぁ。
いやらしいったらないな。
主人公の夫の浮気というのは、
そんな妹嫁をもらったことに対するストレス発散だったんだろうか?
主人公が不倫に走ったように。
おもしろいのは、主人公が新しい不倫相手に出会った時、
送るつもりのなかった、不倫相手へのメールを、
呆けた母親がわけも分からず、
パソコンを触って間違えて送信してしまったことだ。
パソコンの前にいる母親に主人公は「読んだの?」と慌てる。
「私何かしたかしら・・・・でも覚えてないのよ」と答える母親。
アタシは、この母親は何もかも知っていて、
わかっているんじゃないか?なんて思ってしまった(笑)
こんなアクシデントを介在させているのが面白いなぁと思った。
ラストで主人公は新しい不倫相手に会いに行くのだが、
まるで、これからガンジス川にでも入るとでもいった感じだ。
何か悟るのか?川を上手く泳ぐのか?溺れてしまうのか?
私も、あと数年すれば、主人公達と同年齢になる。
昨年、母の還暦を祝って母も、
もうそんな歳になったのだなぁと、驚いた。
私だったら、これだけいっぺんに大変なことがあれば、
母の認知症にだけ悩もうとするかもしれない。
疲れきって、どこかの宗教団体に
うっかり入会してしまうかもしれない。
ラストは生きることへの貪欲さに見えたよ、アタシには。
林さんの作品はいつもそんな切実さがある。
せつなさがある。
四十路過ぎても、女です。
四十路過ぎても、ときめきましょう。恋だって出来るんですといった
単純な大人讃歌の物語ではなく、人生の深淵を描いていているのが、
林真理子さんらしいなと思った。
人生なんてこんなものとうそぶいてみるには、
アタシはまだ若すぎると思うけどね。

